講談社の小説現代に2017年12月号~2018年3月号に連載されていた、内館牧子さんの小説「すぐ死ぬんだから」が、単行本として2018年8月下旬に出版されました。
内館牧子さんと言えば、小説「終わった人」がベストセラーになり、2018年6月に映画化もされ大変話題になりましたが、今回取り上げる、この小説もかなりセンセーショナルなタイトルで、ワクワクしながら読みました。と同時に自分自身の定年後の生き方、さらにその先にある「終活」も少し考えてみました。
小説「すぐ死ぬんだから」の主人公に、感情移入できず
前の小説「終わった人」の主人公は、1949年(昭和24年)生まれの団塊世代で、メガバンクから子会社への不本意な「転籍」を言い渡され、子会社の専務取締役という立場で、定年を迎えた63歳の男性で、定年退職を迎えた、その日から、小説がスタートしていました。
私自身に近い年齢ということもあり、そうとう感情移入しながら小説を読み進めたのを記憶しています。
がしかし、今回の小説「すぐ死ぬんだから」の主人公は女性、しかも、後期高齢者に突入している78歳の女性という側面が影響したと思うのですが、正直なところ小説を読み進めても、全体を通して感情移入できる部分が少なかったように思います。
今回の小説の主人公は冒頭部分で『六十代に入ったら、男も女も絶対に実年齢に見られてはならない。』と語っていますが、これは結構、共感できる言葉でしたね。
60歳代は、まだまだ生々しい年代です。外見は枯れている人もいますが、心は実年齢に抵抗している年代です。(この感覚は、私だけではないと思いますが?)
主人公「忍ハナ (おしハナ)」が冒頭で語る言葉
小説の冒頭部分で主人公ハナが語る言葉が、かなり印象的なので、チェット取り上げます。
年を取れば、誰だって退化する。鈍くなる。緩くなる。くどくなる。愚痴になる。淋しがる。同情を引きたがる。ケチになる。どうせ「すぐ死ぬんだから」となる。そのくせ「好奇心が強く生涯現役だ」と言いたがる。(中略)孫自慢、病気自慢、元気自慢。これが世の爺サン、婆サンの現実だ。
出典元:内館牧子著 小説『すぐ死ぬんだから』講談社出版
私はまだ60歳代ですが、このフレーズ、幾つか思い当たりますね。著者の内館牧子さん、さすがです!! 核心を突いてますね。
確かに、私も最近は鈍くなったり、くどくなったり、する度合いが以前よりも増している感覚がします。これは、頭の柔軟性が衰えているが原因なのでしょうか?
私も、当ブログで「生涯現役」と何度も語っていますが、これは爺サン現象のひとつだと内館牧子さんは言い切っていますね。確かに他人から見るとその傾向なのかもしれないと、この小説の一節で気付かされる面があります。
しかし私の場合、好奇心は一向に衰えることがなく、いろいろ新しい事に挑戦できる現在を「よしよし」と、頭の中で褒めている自分がいる事も確かなのです。
身体の健康を維持するために毎日筋トレ・ストレッチをし、頭が衰えないように必死でこのブログの記事投稿も継続しています。この行動は、爺サン現象に抵抗している典型的な例かもしれませんが?
主人公の忍ハナは78歳ですが、この婆サン現象に真っ向から抵抗して人生を謳歌している書き出しです。
小説「終わった人」は、『定年って生前葬だな。』という衝撃的なフレーズから始まり、私の大変お気に入りの冒頭部分でしたが、今回の冒頭のフレーズも内館牧子さんの、力のこもった書き出しで、インパクトがあり私の心にダイレクトに届きました。
小説のあらすじ(ネタバレしない程度に)
小説の主人公「忍ハナ」は『後期高齢の78歳だが、絶対に実年齢に見られてはならない』と、内面・外見ともに、とことん磨きをかけ、実年齢に抵抗した生き方をしています。
第1章では、主人公が高校の同期会に出るために、銀座通りを歩いていると、シニア向け雑誌の「月刊コスモス」の編集者に呼び止められる場面があります。
「月刊コスモス」には、「こんなステキな人、いるんです」という人気ページがあり、このページに主人公の写真を掲載したいと言われて、心の中でガッツポーズどころか、飛び跳ねるぐらい、嬉しい依頼があったと、語っています。
主人公より2歳年上の亭主「忍 岩造」は、折り紙はプロレベルの腕前。(折り紙のプロがいるか知らないが?)生業は、酒屋だが既に息子夫婦に代を譲っているというシチュエーションです。
ここまでは、なかなか話が展開せずに、今回の小説はチョット面白くないなアー・・・。
と、思いながら読み進めていました。
さて、第2章のラストで、その亭主が硬膜下血腫で倒れ、主人公ハナに思わぬ人生の暗転が降り注ぐことになります。
さてさて、第3章以降は急展開します。
内館牧子さんの真骨頂のフレーズ
小説の内容が佳境に入った第5章に、内館牧子さんの真骨頂の一節がありましので、またチョット紹介します。
60歳後半なんてまだ前期高齢者だ。 まだ「人生双六」の先に、「後期高齢者」がある。(中略)後期高齢者の先はないのだ。終期高齢者、晩期高齢者か? 末期高齢者か? その先は終末高齢者で、ついには臨死高齢者だろう。
出典元:内館牧子著 小説『すぐ死ぬんだから』講談社出版
内館牧子さんは、やっぱり凄い人だ。
このフレーズで、この小説の奥深い部分に触れたような気がしました。そして、凄く感動しました。
(この小説、それなりの価格でしたが、これでコスパ良しです)
加齢に抵抗するという面から、最近感じる事ですが、頭・身体の衰えには逆らえない現実を感じながらも、加齢に抵抗する生き方をしている自分に、やや虚しさを感じることがありますね。
それは、だいたい風邪とか腹痛とかの些細でたいしたことがない病気になった時です、若い時のように短期間で回復しない時に、ああ自分は若くはないのだとフット虚しさを感じることがあります。
健康に良いとされている運動をしたり、頭の老化現象に抵抗する頭の体操をしながら、すこしでも頭・身体の衰えを先延ばしにする対策を実践している自分の普段の生活が、無駄な抵抗をしているのではなかろうか、と虚しさを感じるのも現実問題です。
しかし しかし、私は新しい事(このブログの記事投稿を継続すること)に挑戦している自分をできるだけ褒めることにしています。(まだ、前期高齢者だし、元気だもんね~~~と、加齢に抵抗しています!?)
単行本の紹介
著署名:『すぐ死ぬんだから』単行本(ソフトカバー)–2018/8/23
著者 :内館牧子
出版社:講談社
出典元:amazon『すぐ死ぬんだから 単行本(ソフトカバー) – 2018/8/23』
内館牧子さんの渾身の一作であることに間違いはありません。第3章からの急展開は非常に読みごたえがありました。興味があったら読んでみて下さい。
Amazonの商品説明のあらすじが、より的確なので紹介します。
78歳の忍(おし)ハナは夫岩造と東京 麻布の酒店を息子に譲り、近所で隠居生活をしている。(中略)年を取ることは退化であり、人間60代以上になったら実年齢に見られない努力をするべきだ、という信条を持つハナは美しさと若さを保っている。(中略)ある日岩造が倒れたところから、思わぬ人生の変転が待ち受けていた。(中略)人は加齢にどこまで抗えるのか。どうすれば品格のある老後を迎えられるのか。『終わった人』でサラリーマンの定年後の人生に光を当てた著者が放つ新「終活」小説!
出典元:Amazon「すぐ死ぬんだから」の商品説明より
終わりに
前回の小説『終わった人』は著者・内館牧子さんの渾身の一作でした。
私が現在置かれている状況に近い事もあり、主人公「田代壮介」に思いっ切り感情移入しながらに読み進み、主人公を自分自身に置き換えながら、「定年後の人生とは・今後の生き方は・夫婦関係の在り方は」等を見直すキッカケになりました。
今回の小説『すぐ死ぬんだから』も323ページを要した相当な力作に違いありませんが、主人公の年代が離れていること、女性であることなどから、それほど感情が高ぶることがありませんでした。
しかし、今回の小説のテーマのひとつと思われる「終活」については、今まで考える事もありませんでしたが、小説を読んで気づかされることが多かったように思います。
私も老化に抵抗するだけでなく、主人公の亭主のように突然病に倒れるかもしれない。そのような事を、心の片隅に置きながら、今をどう生きるか、さらに先の「終活」について考えるキッカケを頂いたような気がします。
当サイトに、小説『終わった人』に関連する記事もありますので、宜しかったら読んでみて下さい。