今回は、本来なら受給できるはずの『加給年金と振替加算』について触れます。
老後資金のベースとなる公的年金が、本来なら受給できるはずの年金を届出しないために、もらい忘れているケースが多いようです。ほんとに、もったいないですね!
『加給年金』は、夫の年金にプラスして支給される、言わば公的年金の「家族手当」みたいな制度です。忘れずに必ず届出(請求)しましょう。
『振替加算』は、妻が一生涯もらえる年金なので、長生きすればするほどお得な年金です。特に、妻が年上の場合、夫が65歳になったら忘れずに必ず届出(請求)しましょう。
もらい忘れの原因
今回の記事で、最も大切なポイントである「もらい忘れの原因」について触れます。
・「振替加算」という制度そのものを知らなかった
・夫が65歳になったので、自動的にもらえると思っていた
・妻が働いているから、もれえないと思っていた
・子供には、もらえないと思っていた
・妻が年上なので「振替加算」はもらえないと思っていた
・受給条件が複雑で面倒なので放置した
などが考えられます。
今回説明する『加給年金と振替加算』を含めて、公的年金は受給年齢になれば自動的にもらえると思っている人が多いみたいですね。
それは勘違いです、公的年金は自分で請求手続きをしないと、もらえない制度になっています。
もらい忘れがないようにシッカリと確認してくださいね。
今回の『加給年金と振替加算』の制度は条件が複雑なので、当サイトでザックリとした知識を得て、該当するか不安な場合は年金事務所の窓口に出向いて確認・相談することをお薦めします。
説明の前提
この制度は、登場人物が複数いて条件等が複雑なため、『加給年金と振替加算』を説明する文章を単純化するために、本件に関連する登場人物の呼び方に「仮の名称」を使います。
・妻 :夫と同居している配偶者を「妻」と仮称します
・子供:夫婦に扶養され同居している子を「子供」と仮称します
受給資格の条件
それでは、『加給年金と振替加算』を受給できる資格の条件を見てみます。
この『加給年金』をザックリと表現すると、老齢厚生年金の「家族手当」みたいな制度とみていいと思います。尚、『加給年金』は、原則として老齢厚生年金を受給している夫の銀行口座に振り込まれます。
「夫65歳で妻が55歳の夫婦」の場合の例を示します。
夫は65歳から年金の受給が始まりますが、妻は65歳になっていないので、まだ年金受給できません。
この場合、妻が65歳の老齢基礎年金が支給されるまでの間(この事例では10年間)は、夫の年金に上乗せして加給年金が10年間支給されることになります。
妻が若ければ若いほど加給年金の支給期間が長くなります。このようなケースは現実的に十分あり得る例ではないでしょうか?
妻と子供が何人もいる場合は、結構な金額が加算されるため、バカに出来ない支給額になります。(ただ現実問題として、夫が65歳時点で、18歳未満の子供がいる例は、チョット稀なケースかもしれませんね?)
勘違いのケースですが、加給年金は厚生年金に加入している事が条件になるため、国民年金(老齢基礎年金)しか受給できない人は、残念ながら加給年金の支給対象にはなりません。
加給年金については「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」には書かれていないので注意して下さい。あくまで、受給を申請(届出)した後に届く年金決定通知書や年金額改定通知書でしか確認できません。
それでは、加給年金の受給資格の条件をまとめます。
・夫が65歳に到達していること
または夫が「特別支給の老齢厚生年金(定額部分)」の支給開始年齢以降のこと
・妻は65歳未満であること
・妻は夫に生計を維持されていること(同居していること)
・妻は夫より年上でないこと
・妻の厚生年金保険の加入期間が20年未満のこと
・妻の年収が850万円以下であること
・妻は障害厚生年金を受給していないこと
・子供は18歳未満であること
・子供が1級・2級の障害状態の場合は20歳未満であること
・子供は夫に生計を維持されていること(同居していること)
・子供は結婚していないこと
加給年金額と特別加算額の年額
夫、妻、子供が、それぞれ受給条件を満たしている場合は、下記の加給年金額と特別加算額が支給されます。
下記の表の通り「特別加算」は夫の年齢が若い世代ほど優遇されています。但し、昭和18(1943)年4月2日以降の金額は頭打ちで、これ以上の増額はありませんので、過度の期待はしないようにしましょう。
特別加算が若い世代ほど優遇されている理由ですが、そもそも老齢厚生年金の支給額の計算式が、古い世代ほど優遇される計算式になっているため、若い世代に対する不利益を緩和するために、特別加算という制度で調整ている模様です。
特別加算とは、妻が65歳になるまでの期間(老齢基礎年金が支給される前まで)、夫婦の生活を援助するために加給年金にプラスして特別に加算される金額のこと、と解釈できます。
特別加算は、妻にだけに特別に加算されるもので、子供に対する特別加算の制度はありません。
加給年金額と特別加算額の年額を下記にまとめます。尚、下記の金額は2017年時点の年額です。
【加給年金額】
・妻 :224,300円/年額
【特別加算額(注1)をプラスすると389,800円/年額(224,300円+165,500円)にもなります】
・子供(1人目・2人目の子):一人に224,300円/年額
・子供(3人目以降の子) :一人に74,800円/年額
※上記年額は2017年時点の年額です。
(注1)【特別加算額】
特別加算は、夫の生年月日によって金額に大きな差があります。
夫の生年月日 特別加算額(年額)
昭和9(1934)年4月2日~昭和15(1940)年4月1日 : 33,100円
昭和15(1940)年4月2日~昭和16(1941)年4月1日 : 66,200円
昭和16(1941)年4月2日~昭和17(1942)年4月1日 : 99,300円
昭和17(1942)年4月2日~昭和18(1943)年4月1日 :132,300円
昭和18(1943)年4月2日以降 :165,500円
※上記年額は2017年時点の年額です。
加給年金の支給停止の条件
一般的な例で言えば、妻が65歳になり老齢基礎年金を受給開始すると、夫の年金に支給されていた加給年金は支給停止になります。
(後述しますが、この例では、妻の年金に「振替加算」として支給されます。年額は少なくなりますが!)
当然ですが、妻と離婚したり、妻が亡くなった時にも夫に支給されていた加給年金は支給停止になります。夫と妻の関係で支給停止となる条件は、まだあります。下記の一覧を参照して下さい。
これも一般的な事例で言えば、子供の支給条件を満たしていた加給年金は、子供が18歳になったり、子供が結婚して独立した場合に支給停止になります。その他、子供関連でもいろいろ支給停止の条件があります。下記の一覧を参照して下さい。
それでは、加給年金が支給された以降に、支給停止となる条件を以下にまとめます。
・妻が65歳になった時
・夫と妻が生計の同一(同居)を維持しなくなった時
・妻が亡くなった時
・妻が障害年金を受け取る時
・妻が厚生年金の加入期間が20年以上あり、老齢厚生年金を受給する時(注2)
・子供が18歳になった後、最初の3月31日を迎えた時
・1級・2級の障害を持つ子供が20歳になった時
・夫と子供が生計の同一(同居)を維持しなくなった時
・子供が亡くなった時
・子供が結婚した時
・子供が他人の養子になった時
(注2)「妻が厚生年金の加入期間が20年以上あり、老齢厚生年金を受け取る時」の条件はかなり複雑です。自分のケースはどうなるのかなど、少しでも支給停止条件に該当しそうな場合は、年金事務所に確認することをお薦めします。
支給停止の条件になったにも関わらず支給停止の届出を怠ると、本来、受給できない年金までも受け取ってしまい、過剰に受給した分は、後で返金しなければなりません。手間がかかるだけでなく、不正受給の疑いをかけられこともあるので、届出は速やかに済ませましょう。
加給年金の届出に必要な書類
「戸籍謄本または戸籍抄本(記載事項証明書)」は、夫と妻・子供の身分関係を確認するために必要な書類で、加算開始日より後に発行されたもので、かつ提出日から6ヶ月以内に発行されたものを準備しなければなりません。
「世帯全員の住民票の写し」は、続柄・筆頭者が記載されているもので、夫が妻・子供の生計を維持していることを確認するために必要な書類で、加算開始日より後に発行されたもので、かつ提出日から6ヶ月以内に発行されたものを準備しなければなりません。
「妻および子供の所得証明書または非課税証明書」は、夫が妻や子供を扶養(生計維持)していることを確認するために必要な書類で、加算開始日からみて直近のものを準備しなければなりません。
加給年金の届出に必要な書類をまとめると、下記の通りです。
・世帯全員の住民票の写し(続柄・筆頭者が記載されているもの)
・妻および子供の所得証明書、非課税証明書のいずれか
※上記の書類は、すべて原本を提出します。
尚、「加算開始日」については、日本年金機構のサイトを参照すると、加算開始事由と加算開始日の関係が6パターンあります。この条件はかなり複雑なので、詳しくは日本年金事務所に確認した方が確実です。
書類の提出先
加給年金の提出先は、
・日本年金機構の年金事務所
・街角の年金相談センター
です。 いずれも、現在お住いの近くにある上記の公的機関で問題ありません。
振替加算
妻が65歳になって自分の老齢基礎年金を受給し始めると、夫に支給されていた「加給年金」は支給停止になります。その代わりに、妻の老齢基礎年金に『振替加算』として上乗せされる制度です。そして、妻の預金口座に振り込まれます。
尚、『振替加算』は妻の老齢基礎年金に加算されるものなので、もらい始めれば夫と離婚しても支給継続されます。
妻が夫より年上の場合は「加給年金」は支給されませんでしたが、『振替加算』は支給されます。妻が年上の場合、夫が65歳になった時点で、妻はすでに老齢基礎年金を受給していますので、そこから『振替加算』受給の届出をすることで、晴れて「老齢基礎年金+振替加算」を受給できることになります。
妻の生年月日が昭和41(1966)年4月2日以降の場合は『振替加算』は支給されない制度となっています。
出典元:日本年金機構 加給年金額と振替加算
振替加算については「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」には書かれていないので注意して下さい。あくまで、受給を申請(届出)した後に届く年金決定通知書や年金額改定通知書でしか確認できません。
振替加算の対象者
振替加算の対象者は以下の通りです。
・妻は大正15(1926)年4月2日~昭和41(1966)年4月1日までの間に生まれていること
・妻が老齢厚生年金を受給している場合は、その加入期間が20年未満のこと
・妻の年収が850円未満のこと
妻が年上の場合は、夫が65歳になった時点で「振替加算」の届出をする必要があります。届出しないと、妻は「振替加算」を受給できません。 → 要注意です!
振替加算の金額
残念ながら「加給年金」に比較すると「振替加算」は、かなり少ない金額に設定されています。
そして「振替加算」の金額は、妻の生年月日によって細かく設定されています。(妻の年齢が高いほど高額で、年齢が低いほど低額です)
妻の生年月日 振替加算額(年額)
大正15(1926)年4月2日~昭和2(1927)年4月1日生 224,300円
↓(注3)
昭和36(1961)年4月2日~昭和41(1966)年4月1日生 15,028円
↓(注3)
昭和41(1966)年4月2日以降の生まれ 支給されません
(注3)上記の表で省略した生年月日の人の詳細(妻の生年月日と振替加算額の対応表)は、「日本年金機構 加給年金額と振替加算」のサイトを参照して下さい。
振替加算の届出(請求手続き)
振替加算は、年金を請求する際の「裁定請求書(注4)」に以下の事項を記入して、届出します。
・妻の年金証書の基礎年金番号・年金コード
・妻の氏名および生年月日
(注4)裁定請求とは、年金を受給する資格ができた時に、年金を受給する権利のある人が、その条件を満たしていることを申告して、その確認(裁定)を求める手続きのことで、その際に提出する書類を「裁定請求書」と言います。
書類の提出先は、
・日本年金機構の年金事務所
・街角の年金相談センター
です。 いずれも、現在お住いの近くにある上記の公的機関で問題ありません。
まとめ
今回の記事は、『加給年金と振替加算』という年金制度について触れました、
・加給年金と振替加算の受給資格の条件を満たしたら、速やかに届出(請求)しましょう
・加給年金の支給停止の条件に該当したら、これも速やかに届出をしましょう
くどくなりますが、「加給年金」は妻が65歳になるまでの一時的な年金ですが、それなりに高額な年金だと思いますので、必ず届出(請求)しましょう。
一方「振替加算」は少額とはいえ、妻が一生涯もらえる年金なので、長生きすればするほどお得な年金になります。
『加給年金と振替加算』は、この年金制度を知らない人が多いと思います。かつ、かなり複雑な制度なので当サイトで大まかな情報をつかんで、あとは年金事務所の窓口に出向いて相談することをお薦めします。
この記事が、少しでもあなたのお役に立てれば幸いです。