定年退職後の人生を豊かに生きたいと願い、その様に計画していても、自分の定年退職が視野に入る頃(50歳代)には、自分の両親も高齢化する時期でもあります。

超高齢化社会を迎え、自分の両親が後期高齢期に近づいたら、認知症発症のリスクが高まると考えていた方がよさそうです。
認知症の発症率は75歳を過ぎると急激に上がり、90歳を過ぎると70%の人が発症すると言われています。両親の老いや認知症の発症リスクは、誰にとっても無縁ではないと思います。

判断能力が衰えた両親を法的に保護する一つの手段として「成年後見制度」というものがあります。あまり知られていない制度ですが、今回はこの制度について触れます。

私は、父親が亡くなったことが契機で、母親の成年後見人になりましたが、今回の記事はその時の体験を交えて成年後見制度を申立てする前に知っておくべき事について記載したいと思います。

成年後見制度の概要

成年後見制度とは

成年後見制度は,高齢化社会を支える制度として2000年に施行されました。

成年後見制度は、認知症、病気、事故などにより判断能力が不十分になった人(「本人」と称します)の財産や権利を保護するために、家庭裁判所が援助者を選任し、本人を保護する制度を「成年後見制度」と言います。

本人の正常な判断能力が欠如したことで、不必要な契約を締結したりして大きな不利益を被り、本人の財産が狙われるようなことが無いように、社会的弱者を保護するための制度が「成年後見制度」に当たります。

成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」がありますが、今回の記事は「法定後見制度」を見ていきます。

成年後見制度の文言の確認をしておきます。
例えば、親が認知症になり家庭裁判所に成年後見を申立てして審判がおりると、
 ・成年被後見人:認知症の親を示します(単に被後見人、又は本人とも称します)
 ・成年後見人 :家庭裁判所が選任し被後見人の財産を管理する人です(単に後見人とも称します)

成年後見人は、本人の財産を管理するとともに、広範囲な代理権及び取消権を持ちます。

成年後見制度の効果

ほんの一例ですが、成年後見制度を利用すると以下の事例のような効果があります。

例えば、親が正常な判断能力が欠如したまま不利益な契約を締結したあと、その契約を取り消す場合、

・成年後見制度を利用する前であれば、契約条項にそったクーリングオフなど面倒な手続きが必要になります。 場合によっては契約取消しが出来ない場合もあります。

・成年後見の審査確定後は、被後見人又は後見人が契約相手に「取消し」すると通知するだけで、契約を取り消すことが出来ます。このように、法律で被後見人を守ることができるのです。

成年後見の申立てができる人

私の例で言えば、父が遺言書の執行を信託銀行に委託した事を契機に、認知症の母の成年後見を申立てした、かなり一般的な事例ではないかと思います。

東京家庭裁判所のサイトで「成年後見の申立てができる人」を調べると下記の通りでした。

 ・本人(後見開始の審判を受ける者)
 ・配偶者
 ・四親等内の親族
    子・孫・曾孫・曾孫の子・親・祖父母・曾祖父母・曾祖父母の父母・
    兄弟姉妹・おじ・おば・甥・姪・いとこ・配偶者の親・配偶者の祖父母・
    配偶者の曾祖父母・配偶者の子・配偶者の孫・配偶者の曾孫・
    配偶者の兄弟姉妹・配偶者の甥姪・配偶者のおじ・おば など
 ・成年後見人
 ・任意後見人
 ・成年後見監督人
 ・市区町村長
 ・検察官
 出典元:東京家庭裁判所 成年後見・保佐・補助申立ての手引

成年後見を申立てする人は、一般的には配偶者とか、その他の親族が多いと思いますが、調べてみると市区町村長とか検察官までが申立て出来るのですね。

チョット驚いたのは本人(被後見人、審判を受ける人)が申立て出来ることでした。恐らくこれは本人が身体などに重い障害があり後見人が必要になるケースではないかと推察します。

成年後見 申立て~審判確定までの流れ

成年後見の申立てから審判確定までの大まかな流れは、以下の通りですが、約1~2ヶ月程度掛かります。
私の場合は、3週間程度で審判確定しました。書類を作成してくれた司法書士さんによると異例の速さだったようです。

東京家庭裁判所のサイトにあった資料をもとに、成年後見の申立てから審判確定までの大まかな手続きの流れと、私が実際に体験した事をコメント欄に加えてみました。

項目 手続き コメント
申立て準備 (1)診断書を作成してもらう 「診断書(成年後見用)」及び「診断書付票」を主治医に作成してもらいます。主治医は精神科の医師でなくても構わない。
その際、家庭裁判所から「精神鑑定」の依頼があったら引き受け可能かどうかを「鑑定連絡票」に記入してもらいます。
申立て準備 (2)申立て書類を作成する 申立てに必要な書類を後述しますが、これが一筋縄ではいきません
成年後見の申立てすること自体初めての人が大半だと思いますが、私は最初から自分で作成する事は断念しました。
司法書士にお願いして全ての書類を作成してもらいました。
申立て準備 (3)申立て書類の提出 家庭裁判所に対して、必要書類を揃えて後見開始の審判の申立てを行います。
申立て先は、本人の住所地(住民登録している場所)を管轄する家庭裁判所になります。
私の場合は、東京家庭裁判所に申立てをしました。
審理 (4)申立て書類の審査 家庭裁判所で書類の審査が行われます。
審理 (5)申立人等の面接 家庭裁判所に出向き面接を受けます。
審理 (6)調査官の調査、親族への照会、鑑定など 家庭裁判所で調査、場合により親族への照会、鑑定が行われます。
私の場合、鑑定はありませんでした。
審判 (7)審判がおります 裁判官が後見開始、後見人等を誰にするかを判断します。
審判確定 (8)審判確定 審判が確定し、後見開始時期、後見人の選任通知があります。
確か、このあたりで「事件番号」が附番されます。家庭裁判所から見ると成年後見の審判は「事件」なのですね!
後見登記 (9)後見登記 裁判所が、審判確定後に法務局に行う手続きです。
後見登記されると、成年後見登記事項証明書が取得できます。
後見開始 (10)成年後見人の仕事開始 成年後見人としての仕事が、ここから始まります。

「申立て~審判確定までの流れ」は下記サイトを参考に作成しました。
 出典元:東京家庭裁判所 成年後見・保佐・補助申立ての手引

成年後見の申し立て時の必要書類

成年後見を申し立てする際の資料が下記になりますが、非常に沢山の資料を作成しなければなりません。私が申し立てした時(6~7年前)より書類が増えている様に感じます。

医師の診断書を除き、下記の書類をすべて自分で作成することも出来ますが、申し立てが初めての人にはかなり難しいと言えます。

私の場合は、専門家(司法書士)にお願いして一切の書類を作成してもらいました。その時の費用は確か約20万~25万円程度だったと記憶しています。 

申立て書類の作成に多額の費用が掛かりますが、書類を作成する過程でいろいろな不明点が出てきます。それをひとつひとつ確認しながら作成する時間と労力を考えると、専門家に任せた方がコストパフォーマンスがいいのではないかと思います。

私の場合、成年後見の申立てをしないと遺言執行が進まないという事情もあり、緊急性を帯びていました。専門家に申立て書類を作成して頂いて正解だったと思っています。

成年後見の申し立て時の必要書類
 ①提出書類確認シート
 ②後見開始申立書
 ③申立事情説明書
 ④本人の状況について
 ⑤親族関係図
 ⑥本人の財産目録
  ・不動産についての資料
  ・預貯金・株式等についての資料
  ・生命保険、損害保険についての資料
  ・負債についての資料
  ・収入についての資料
  ・支出についての資料
 ⑦財産関係の資料(該当する財産がないものは不要)
  ・不動産の全部事項証明書
  ・預貯金通帳のコピー
  ・保険証券・株式・投資信託等の資料のコピー
  ・負債の資料のコピー
 ⑧収支状況報告書
 ⑨収入・支出に関する資料のコピー
 ⑩後見人等候補者事情説明書
 ⑪親族の同意書
 ⑫診断書(成年後見用)
 ⑬診断書付票
 ⑭本人の戸籍謄本、附票、登記事項証明書
 ⑮本人の住民票又は戸籍の附票
 ⑯本人が登記されていないことの証明書
  ・成年後見の登記が既にされていない事の証明書(法務局発行)
 ⑰申立人の戸籍謄本、附票、登記事項証明書
 ⑱後見人等候補者の住民票又は戸籍の附票
  ・後見人候補者の戸籍謄本、住民票、身分証明書、登記事項証明書、申立書付票
 ⑲愛の手帳のコピー

「必要書類」については、下記サイトを参考に作成しました。
 出典元:東京家庭裁判所 成年後見・保佐・補助申立ての手引

成年後見の申し立て時の費用

成年後見の申立て時に、家庭裁判所に収める費用は以下の通りです。

 ・申立手数料 : 収入印紙で 800円
 ・登記手数料 : 収入印紙で 2,600円
 ・郵送切手代 : 切手で   3,220円(細かく切手の金額内訳も指定されています)
 ・鑑定費用  : 実費で10万円~20万円(医師に支払う費用)
  (鑑定は必須ではない。家庭裁判所が必要と判断した場合に実施されます。)
 出典元:東京家庭裁判所 申立てにかかる費用・後見人等の報酬について

「郵送切手代」については、”何円の切手が何枚”などと細かく指定されています。

「鑑定費用」は医師に支払う費用なのですが、家庭裁判所が必要と判断した場合に「鑑定」が実施されるため、必ず必要な費用ではありません。ちなみに私の場合は、鑑定は実施されませんでした。

【注意】専門職の成年後見人の場合は報酬が発生する

成年後見人として誰を選任するかは、家庭裁判所の裁量に委ねられています。

例えば、後見人等候補者に申立人(主に親族)を申請しても、家庭裁判所が第三者の専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士等)の成年後見人を選任する場合があります。
あるいは、親族が成年後見人に選任されても、その業務を監督する第三者の専門職の成年後見監督人が追加選任される場合もあります。
どちらのケースでも、この選任には不服申立てはできません

いずれにしても、第三者の専門職の後見人(後見監督人を含む)が選任された場合、家庭裁判所は報酬額を決定する審判を下します。第三者の専門職の後見人が行う業務に対する報酬を支払う事になります。尚、その報酬は本人(被後見人)の財産の中から支払います。

家庭裁判所が決定する事柄ですが、月額2万円~6万円程度かかる模様です。
(被後見人の保有する財産の総額によって報酬月額が相当違うので、上記金額はあくまでも目安です)

圭一
結構な金額です!!

私の場合は、私が親族後見人になり成年後見監督人はつきませんでしたので、月々の費用は発生しませんでした。

成年後見人の業務

成年後見人になると家庭裁判所の監督を受けることになります。
それは、成年後見人としての仕事内容を、家庭裁判所に対して一定期間ごとに詳細な報告が必要になるということです。

 ・本人の現状や現在の問題等についての報告書
 ・本人の財産目録、収支状況報告書、その裏付けとなる通帳や領収書類等のコピー

上記報告書を作成するためには、日頃から取引に関する書類や領収書をキッチリと保管し、収支状況を把握してお く必要があります。

この報告を怠ると最悪の場合、第三者の専門職の成年後見監督人が追加選任される場合もあります。つまり、余計な費用が発生することにも繋がります。

本人(被後見人)の財産を減らすことにもなりかねないので、家庭裁判所への報告は正確かつ期限までに行うのがベストです。

成年後見人の定常業務として、家庭裁判所に報告する書類が大量にありますが、それらについて記載すると相当な記事ボリュームになるので、機会を改めて当サイトに記事として書きたいと思います。

【注意】成年被後見人になると出来なくなること

成年後見の審判が下ると、本人(被後見人)が出来なくなることがありますので、注意して下さい。

私の体験した感覚では、成年後見の審判が下りた後では、本人(被後見人)が帰る可能性のある自宅の売却などは、ほぼほぼ家庭裁判所の認可はおりません。(本人の病気が治った場合、本人が帰る場所(家)を守るのは家庭裁判所の重要な責務なのでないかと感じました)

要は、本人の財産を守るために、本人にとって不利益になるような事(生前贈与、養子縁組、自宅売却等々)が出来なくなると、解釈できるのではないでしょうか?

成年被後見人になると出来なくなること
 ・生前贈与が出来なくなります
 ・生命保険契約が出来なくなります
 ・養子縁組が出来なくなります
 ・自宅の売却には家庭裁判所の許可が必要になります
 ・印鑑登録ができなくなります
 ・株式会社の取締役・監査役(役員)になれなくなります
 ・高度な判断力が必要な職業につけなくなります
   (弁護士、司法書士、弁理士、行政書士、公認会計士、税理士、
    医師、薬剤師、社会福祉士、介護福祉士)

上記の事項に当てはまるような場合は、成年後見の申立てをする前に、済ませておくことが肝心です。

圭一
よく考えずに成年後見制度を利用して「こんなはずではなかった」と後悔しないようにしましょう。

まとめ

私の場合、両親が同時に認知症を発症し、いろいろな件で、てんてこ舞いになりました。

さらに、追い打ちを掛けるように、母親の成年後見の申立てをする事態にもなり、全ては初めての体験で、なにもかも分からないまま成年後見制度を利用することになりましたが、幸いなことに同制度を利用することによる大きな問題点はありませんでした。

今回、成年後見制度を調査してみると、当時では分からなかった事柄も少し見えてきました。
特に、高額の費用が掛かる成年後見監督人の件とか、成年被後見人になると出来なくなる事等は、チョット驚きの内容でした。

今回の記事が、成年後見制度を利用しようとしている、あなたの参考になれば幸いです。

今回の記事執筆にあたり、東京家庭裁判所の下記サイトも参考にさせて頂きました。
  出典元:東京家庭裁判所 後見センター

以下は当サイト内の記事です。参考になるかもしれませんので、宜しかったら見て下さい。