原則として、公的年金の受給開始年齢は65歳ですが、現在生活費に困窮している等の理由で、少しでも早く年金をもらうには、年金の受給開始年齢を早める(繰り上げ受給する)方法があります。但し、繰り上げ受給にはメリットだけではありません、むしろデメリットの方が多いように感じます。
公的年金は、生きている限りずっと受給できる大切な終身年金なので「受給開始年齢を繰り上げる」と判断する前に、以下の事を検討した方が良いのでは、との思いから今回の記事を記載しました。
「繰り上げ受給」のメリット
①すぐに年金を受給できる
生活費に困っている人は、これは大いなるメリットですね。
但し、裏返しとしてのデメリットもあるので注意して下さい。
②76歳8ヵ月までは受給する総額が多くなる
例えば、受給開始を5年早めて60歳から受給開始する場合、65歳から受給する場合と比較して、受給総額が多くなります。
但し、これも裏返しとしてのデメリットが隠れています。76歳9ヵ月目以降は受給額が、65歳から受給する場合と比較して、減額になり生涯その金額になるという側面がある事に注意して下さい。
(損益分岐点が76歳9ヵ月目頃になります)
「繰り上げ受給」のデメリット
①減額された受給額は生涯減額されたままになる
60歳から繰上げ受給すると、30%減額されて、一生涯減額された年金額になります。
②繰上げ請求後は、取消・変更はできない
当たり前ですが、年金の繰上げ請求した後は、その取消・変更は出来なくなります。
③障害基礎年金は支給されなくなる
年金の繰上げ請求した後は、原則として障害基礎年金は受給できなくなります。
障害等級1級・2級になったとしても、年金の繰上げ請求した後は、障害基礎年金を受給出来なくなります。
④国民年金の「任意加入制度」に加入できなくなる
年金の繰上げ請求した後は、国民年金の「任意加入制度」を利用するこは出来なくなります。
国民年金の「任意加入制度」は、以下の様な事柄に対しての対応制度ですが、年金の繰上げ請求した後は、これが利用できなくなります。
・老齢基礎年金の受給額を増やすため
・老齢基礎年金の受給資格を得るため
⑤寡婦年金は受給できなくなる
年金の繰上げ請求した後は、寡婦年金は受給できなくなります。
寡婦年金とは、国民年金の第1号被保険者として25年以上働いていた夫がある場合に、その妻が受給できる年金ですが、年金の繰上げ請求した後は、これが受給できなくなります。
「繰上げ受給」と「繰下げ受給」の金額差から思うこと
それでは、国民年金保険料を40年間納付済とした前提で、「繰上げ受給」と「繰下げ受給」の年金受給額の比較をしてみます。
※「年金の繰下げ受給」については、別の記事を参照して下さい。
2018年度は、65歳の受給金額の満額(100%)が「779,300円」(黄色部分)でしたので、それをベースに計算しました。
この表では、61歳~64歳、66歳~69歳は省略しました。
受給開始年齢 | 受給率 | 受給金額(年間) |
---|---|---|
60歳から受給 | 70%(30%ダウン) | 545,510円 |
65歳から受給 | 100% | 779,300円 |
70歳から受給 | 142%(42%アップ) | 1,106,606円 |
「60歳からの繰上げ受給」と「65歳からの受給」では、約1.4倍の金額差になり、
「60歳からの繰上げ受給」と「70歳からの繰下げ受給」では、なんと約2倍の金額差になります。
定年退職後、60歳~65歳までの5年間に、生活資金に余裕のある人。例えば、
・年金以外の収入源がある
・現役時代に蓄えた預貯金で生活できる
この様な人は、「年金の繰上げ受給はしない」という選択がいいかもしれませんね。
時効に注意
受給開始年齢を繰り上げる場合も、65歳から受給する場合も、必ず受給するという申請をしなければなりません。(時効があるので注意しましょう)
日本年金機構のサイトには、
『年金を受ける権利(基本権)は、権利が発生してから5年を経過したときは、時効によって消滅します。』
と書かれています。
出典元: 日本年金機構「年金の時効」
まとめ
今回の記事は、「年金の繰上げ受給」によるメリット/デメリットを調査している段階で、デメリットの方が多いように感じたため、記事にしてみました。
一生涯、受け取る年金が多いに越したことはありませんが、いろいろな要素を検討しながら、
・「年金の繰上げ受給」にするか
・標準的な、65歳からの受給にするか
・「年金の繰下げ受給」にするか
決断しなければなりません。 この記事、及び当サイトの関連記事が参考になれば幸いです。
出典元:今回の記事は、下記サイトを参考に作成しました。
➤ 日本年金機構「老齢基礎年金の繰上げ受給」